技術習得が先行する介護現場
「良質な介護」の為に「高度な介護技術」を習得しても活かしきれない
各地で開催されている介護セミナー
介護にかかわる研修は全国各地で行われています。
代表的なものは、移乗動作の介助方法や認知症の方への対応方法などで、
以前は、「良質な介護」・「質の高い介護」を
合言葉のように開催されていました。
最近は、「介護者を守る介助方法」など介護側の立場からのタイトルも増えています。
介護する側される側ともに無理の少ない介護・介助方法としての
介護技術習得は必要可決です。
セミナーで学ぶ基本 現場で必要な応用
セミナーでは、体の動き方に合わせた力の入れ方や支え方など、
当たり前のことですが、基本的な事柄を学びます。
基本的な人間の体の動きや働きと疾患の特徴など細やかに説明されるセミナーも
増えています。
しかし、実際に現場に戻って利用者に技術を使おうとすると
「上手くいかない」と落ち込んでしまう人が意外と多く見られます。
私自身も、講師助手として外部セミナーに参加した時や自分の勤めている施設内での研修で説明係を行った時にも同じような感想や質問を受けたことがあります。
ここまで読んだ方の多くは、
「利用者も介護者も個人差があるのだから当然!!」と
考える方は多いと思います。
この当然とされている部分を解決しなければ、高度な介護技術は個人の産物で
”できる人”だけが苦労する負のループに陥る恐れが出てきます。
技能で介護現場の円滑化を図る
個人差を埋めて”できる人”だけの負のループを減らす
【技術】を使いこなすために必要な【技能】
最初に技術と技能の違いを確認する必要があります。
1.技術(テクニック【technic】)
①科学を実際に応用し、人間生活に役立てるわざ。
②物事を(たくみに)行うわざ。
ボディメカニクスや移乗動作の介助方法など。
2.技能(スキル【skill】)
物事を行う腕前。
場面や相手に応じて介護方法など対応を変化させること。
基礎知識を習得しても実際の現場で活用できるようになるまでに時間がかかる
傾聴、コーチングなど。
現在の介護関連の「スキルアップセミナー」として開催されているものの多くは
技術と技能が混在して開催されている場合があることにご注意ください。
【技能】が応用に活用できる理由
今回、特に伝えたいことなので改めて【技能】の説明をします。
技能(スキル【skill】)とは
「ある物事を行う時に発揮される能力」とされています。
例えば、
- 巧みな話術で聞く人を魅了する人や
- スポーツでは、多彩な技で対戦相手を翻弄する人や「テクニシャン」
と、呼ばれる人などが、
持っている技術を活用する際に発動し発揮されている能力が
技能(スキル【skill】)です。
時折、物事に対して”選択肢”が多い人のことを
『引き出しが多い』と尊敬することがありますが、
これらの人は、獲得した【技術】を発揮する場面を選択できる
【技能】を両立させている人になります。
つまり、
- 技術が引き出し
- 技能は引き出しを選ぶ頭脳
となります。
介護場面においても、”移乗介助”などをはじめとした
様々な【介護技術】という引き出しから
必要に応じて取捨選択する時に必要となるのが
【技能】となります。
介護場面に【技能】を取り入れる小さなステップ
活用の一歩目は「T・P・O」から
ある程度の年齢(小学生の息子は知りませんでした^^;)の方は
聞いたことがあると思いますが、
「T・P・O」という言葉があります。
T=時、P=場所、O=場合
に応じた対応を求められる時に用いることがあります。
代表的な例として、
- 食事に行くときの服装
- 会議での発言するタイミング
などがあります。
一昔前の「恋愛マニュアル雑誌」では、
「デートコースとシチュエーション別ファッション・トークマニュアル」
などの特集が組まれるほどでした。(若い方や知らない方はすみません)
「T・P・O」の具体例
【技能】の活用に「T・P・O」が入り込んで
「?」疑問人感じた人もいるかも知れません。
しかし、介護場面で例えば、
ベッドから起き上がりと車イス等に移乗介助を行う時に
利用者に声掛けせず相手の状況を確認せずに
突然、起き上がり介助から移乗を行う人は殆どいないと思います 。
まずは、
- 声掛けをして相手の意思を確認すること
- 移乗前にも意識や状況を認識しているか
など確認しながら介助を行っているはずです。
この場合の「T・P・O」は、
起き上がるまで
- T=今現在、これから
- P=ベッドの上
- O=起き上がる
そして、移乗に際しては
- T=これから
- P=ベッドから車イスへ
- O=乗り移る
という状況が成立します。
つまり、介護を開始する目の”声掛け”から
「T・P・O」を意識することで【技能】習得に向けた
一歩目を始めることができます。
!!!ワンオペなど、物理的・心理的に切迫している状況での
試行は危険を伴う場合があります。
試行・実行の際には、周囲の状況を確認して行ってください。
【技能】習得に必要となってくるもの
技能を習得するには、時間がかかります。
理由として、技能を発揮するためには
- 様々なパターンに有効な方法を試す
- 自分自身の得意不得意を受け入れる
- 現在の状況を把握する
など、うまく行けば一回で獲得可能な【技術】と違った
要素が必要とされるからです。
(もちろん、技術も一回の練習で獲得できることは極めて稀です)
技能を習得するためには、少なくとも
- 使用する【技術】
- 自分自身の肯定する
- 目的を持って行動する意識
- 目的から結果を予測する
- 得られた結果が予測通りか予測と違う結果かを受け止める
- 予測と結果から次の予測にすすめる
- 現在の自分自身と相手の状況を把握する観察力
など、様々な要素が必要です。
これら、
- 目的意識
- 自己肯定感
- 予測と結果の振り返り
は、”体験”として
記憶に残していくためにも必要です。
技能は、経験・体験と知識の蓄積を利用します。
記憶に残っている”体験”が
強く濃く多いほど、活用しやすくなります。
技能を介護場面以外の日常生活でもトレーニングして習得までのステップを小さくする
移乗動作の介助など、介護現場で使用する技術はなかなか日常生活に応用するのは難しいものが多いです。
しかし、日常会話での言葉のかけ方や声色、目線や身振りなどは
介護現場での利用者の対応に限ったものではありません。
- 職員同士の引継ぎやカンファレンス場面、
- 私生活で家族や友人と会話する場面でも、
小さな目的や目標を設定することで練習が可能です。
(私個人は「勝手に場面設定トレーニング」と名前を付けて、友人たちとの飲み会の時などに内緒で話し方や聞き方を変えてみたりしています)
日常のほんの小さな挨拶や雑談もトレーニングに利用できます。
まとめ
介護技術を有効に活用し発揮するためには、
技能という「引き出し」を
上手に選択する能力が必要です。
【技能】は普段から意識してトレーニング
すると、習得が一段と早くなります。
以上、今回の”斜め”な一案でした。
【技能】に関して、介護場面でよく耳にする「傾聴」に関してや
技能習得に必要な目的意識などに関しては、別の機会に
改めて見直しの記事を作成したいと思います。
今回の記事を読んで、
介護への”気持ち”がほんの少しでも「軽く」なっていただければ幸いです。
岩波 国語辞典 第四版
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